「激痩せ」有名人が突きつける美と命のボーダーライン
有名人たちと『激痩せ』の複雑な事情
【「激痩せ」をめぐる複雑な事情】
「死役所」(あずみきし)という漫画がある。死者が死の手続きを行なう架空の役所が舞台の物語で、10月からはドラマ化もされる予定だ。そのなかに「ダイエット日記」という回があり、これがなかなかよくできている。大学生のヒロインが、ダイエットから拒食や嘔吐をするようになり、やがて……という内容なのだが、特に感心したのは、周囲(といっても、他人たち)の反応の描写だ。
SNSでダイエット記録を始め、激痩せしていくヒロインに対し「いいね」がどんどん増えていく。ただ、コメントのなかには、
「私の理想です」「励みになります」「今日の食事教えて」
というものもあれば、
「痩せ方が気持ち悪い」「一度病院に行った方がいいんじゃないですか」
というものも。この状況が「激痩せ」をめぐる複雑な事情をよく反映しているのだ。
SNSと激痩せの関係については、ちょうど3年前に上梓した拙著『痩せ姫 生きづらさの果てに』でも言及した。痩せたがる女性たちにとって、ネットでの好意的反応は自信や安心につながるし、逆の反応は落ち込みや不安をもたらす。2017年1月にはテレビ番組『ザ!世界仰天ニュース』で英国人少女のインスタグラムダイエットがとりあげられた。163センチ57キロだった彼女は、インスタでの称讃を糧に、38キロまで痩せるのである。
この番組では「シンスピレーション」や「プロアナ」といった用語も紹介されていた。それぞれ「痩せる気持ちを高めるもの」「拒食支持」を意味する。特筆すべきは、そういう用語を使ってその少女を称讃した人たちが、彼女を陥れようとしているわけではなく、本気でよしとしているという事実だ。もちろん、それを批判する人たちの「痩せすぎは不健康で美しくない」という考え方も本気だったりする。こうしたふたつの価値観のせめぎあいは、今に始まったことではないが、称讃派の増加により、激化している印象だ。